アルコール性肝障害 アルコール依存症

アルコール性肝障害 アルコール依存症 で引き起こされる代表的な病気です。「正常値」と称されるものにはかなり個人差があります。しかも時々刻々と変化します。そこで、その人その人の値が正常か異常かを正確に判定するためには、ある一定期間の観察が必要です。一時の数値だけで一喜一憂することは避けなければいけません。アルコール依存症が引き金となって病気になる代表的なものを紹介します。

アルコール性肝障害 アルコール依存症 で引き起こされる

さてウィルス性のものや、ほかの病気によるものを除外して、明らかにアルコールによってもたらされることがたしかめられた肝臓病のことを、肝臓専門医たちは「アルコール性肝障害」と呼び、つぎの6つのグループに分類します。

1.アルコール性脂肪肝

肝臓(肝小葉という部分)に異常に多量の脂肪が蓄積した病態。ことに中性脂肪がたまった慢性脂肪肝であることが多い。肝臓がアルコールの処理に追われて処理できなかった脂肪や、つまみなどでとった脂肪などがたまりにたまって、肝臓がギブアップしかかった状態。

飲兵衛本人には、からだのだるさを訴える以外には自覚症状はないか、あっても食欲不振、まれに吐き気がある程度。

ただし、胃潰瘍や膵炎、糖尿病などの合併症のある人では、症状はこのかぎりではない。

この病態になる人たちは「常習飲酒家」以上とされている。常習飲酒家とは日本酒換算で1日3合以上、少なくとも5年間飲みつづけている人たちのことになる。

なお、アルコール性脂肪肝と診断したときに、医者がおこなう治療とは「禁酒+ 高蛋白食」。
禁酒をすれば4週間ほどでトランスアミナーゼ活性値(GOT・GPT)は低下します。また、たいていの脂肪肝は7~8週間で治ります。

2.アルコール性肝炎

飲兵衛が慢性的にヤケ飲みしたり、何日も集中飲みをしたときに多くでる病態。さすがの肝臓も破壊され(免疫反応に異常をきたす)脂肪肝にくらべると訴える症状はもっとつよくなる。強度の食欲不振、悪心・嘔吐、下痢、上腹部の痛み、ときには黄疸や、肝臓肥大、発熱などをともなうことがある。

飲兵衛がこの病態を疑って医者を訪れるのは、大酒を飲んで突然、黄疸がでてあわてふためいて、というケースが多いかもしれません。
やはりアルコール性脂肪肝とおなじように、常習飲酒家がなることがほとんどです。
また、この状態にある大酒家では、むりに禁酒すると1日ないし3日のちにうわ言や発汗、頻脈などの禁断症状がでることもあります。

くわえて、この状態を放置したままでいると肝硬変にすすむケースも少なくないのです。この場合、医者がおこなうのは「禁酒+安静+高蛋白食」です。
あまり栄養状態のよくない人たちには、さらに高カロリーの輸液や、高ビタミン食、貧血改善のためのアルブミン輸血などが加わります。

3.アルコール性肝硬変

肝硬変とは、いうなれば慢性肝臓病の「終着駅」とも言えます。現状の医学ではまだ肝硬変そのものをなおすことはできないのです。

日本人の場合、そのほとんどは肝炎ウィルスの悪さによっておこるのですが、なかには明らかにアルコールが原因のものもあります。これがアルコール性肝硬変です。指標となるのは、「肝硬変量」=160g×20です。
くり返すまでもなく、日本酒6合以上(アルコール160g) を20年間飲みつづけた人は肝硬変になるという「悪魔の計算」のことです。

肝硬変では、ほかのアルコール性肝障害同様の症状、つまりからだのだるさや食欲の低下、悪心・嘔吐、腹痛や腹部の不快感などにくわえて、体重が減少するのも特徴です。
そのほか、微熱がつづく、黄疸の出現、手のひらが赤くなる、からだの随所にくもの巣のような赤いすじがでる、乳房の女性化、毛髪の減退、睾丸が萎縮し、このためインポ化が進行するなどの徴候が見られます。

しかし、肝硬変は「沈黙の臓器」におこる病変です。これといった自覚症状がなくて、定期検診などのときにはじめて発見されるケースも多いので、要注意です。

なりやすいのは「大酒家」です。大酒家とは、5合以上少なくとも10年以上飲みつづけているか、もしくはもっと短期間でも同じ量を飲んだとみなされる人のことです。

いうまでもなく、この病気になるのは男性のほうが圧倒的に多いのですが、女性の場合はもっと飲酒量が少ない段階から起きます。

美空ひばりは慢性肝炎がこうじての肝硬変で死亡しました。歌の女王にとってのアルコールは、真実「悲しい酒」だったのです。この病気の有効な治療法はまだありませんが、禁酒した人たちでの5年生存率は63~70%% と、禁酒できなかった人たち(34〜44%) より高いとの報告があります。

4.アルコール性肝線維症

あまり耳にしないのですが、これは肝臓の細胞や血管などに「線維化」といって、蛋白の一種であるコラーゲンが沈着する特有の症状がすすんだ病態のことです。
なぜ、このような状態がおこるのかは明らかではないのですが、しかし、まだ肝硬変ほどには肝臓がダメージを受けてないので、しいていえば、脂肪肝と肝炎の中間ともいえる要注意段階の状態です。というわけで、症状も1と3の中間程度ということになります。常習飲酒家の多くが疑われます。

5.常習飲酒家の慢性肝炎

現状では、日本人の慢性肝炎の大半は肝炎ウィルスによっておきています。したがって、この慢性肝炎のなかで、肝炎ウィルス検査陰性、輸血歴なしなど、明らかに飲酒が原因であると特定できるものをさすことになります。

症状は先のアルコール性肝炎とかわりません。しかし、ウィルス性肝炎のうちC型ウィルスが見つかったのはつい最近のこと、「常習飲酒家の慢性肝炎」と診断を受けている人のなかには、実際には見落とされたC型肝炎であることも少なくありません。
なりやすいのは常習飲酒家です。C型肝炎以外なら、禁酒すればいちじるしく改善される点が救いです。

とはいえ、このところウイルス性肝炎の研究は日進月歩であり、肝炎ウィルスが駆逐されれば、やがてはこの慢性肝炎という病気そのものが、欧米なみに、おもにアルコール性のものをさす時代になること( ちなみにアメリカ人では全肝炎中のアルコール性肝炎は62%) も予測されています。
2週間の禁酒が脂肪値を半分に | 血管はもっと若返る

6.非特異的変化

「非特異的」ということばは「特異的でない」ことを意味する用語でですが、「一般的」という意味ではありません。ひとくちにいえば、共通項となる特徴がないということで、常習飲酒家に肝機能検査をおこなったとき、異常は認められるものの、まだ肝臓そのものは正常、ないしはこれといった悪い徴候が認められない状態のことです。
いうなればアルコール性肝障害の「予備軍」といったところです。

この6つの群のなかで飲兵衛にもっとも多いのは、いやな話ですが、3の肝硬変です。ついで2のアルコール性肝炎です。

見かたをかえれば、自覚症状のでないときは病院へは行きたがらない人たちがいかに多いかという証拠でもあります。ちなみに、肝臓専門医たちによると、発生頻度は、その他の群をそれぞれ1としたとき、7肝硬変4.5、アルコール性肝炎1.5~1.7程度ということになります。つまり100人ほどの、かつては酒豪をもって任じたアル中患者が、ひとつの病院の内科病棟に入院したとすれば、その内訳は肝硬変が45人、アルコール性肝炎が15~16人、あとの40は10人ずつその他の病気だという勘定となります。

酒の害は最終的には頭にくる

酒を飲みすぎてでる害は肝臓だけではありません。悲しい酒で死んだ美空ひばりも、死ぬときには大腿骨骨頭壊死という病気を併発していました。

これは骨が軟らかくなって生じる病態で、飲みつづけた人たちの骨に比較的でることの多い病変のひとつでもあります。酒を飲んだとき敏感に反応を示す臓器には、膵臓にくわえて、目が衰えてくる「アルコール性弱視」、骨髄機能が衰える「貧血」、筋肉がやられれば「アルコール性筋炎」、しびれ・痛みのひどくなる「アルコール性神経炎」などもでます。

女性の場合、月経不順、妊婦では奇形児を出産するケースなどもなくはないのです。飲兵衛に限らず、大量のアルコールを短時間に体内に入れれば人は死亡します。
血中濃度でいうと400mg/ 100mlを超えた段階で、いわゆる「急性アルコール中毒」の末期です。

これはアルコールの麻酔作用が神経系の中枢部におよぶためのものです。このような、アルコールが神経系に影響をおよぽして悪さをする作用を、専門家は5つに大別しています。

その第-は、とったアルコールがその場でもろに作用する「急性アルコール中毒」。でる症状はおもに酩酊( 一過性の意識障害)ですが、医者のいう「異常酩酊」は、ことばのもつれ、運動感覚の失調などで、はなはだしい場合は、突然の興奮状態から急速な睡眠ないしは昏睡にいたります。
ふだん飲酒癖のある人たちではあまり見られないのですが、自分の酒量の閾値をい知らず一気飲みにはしる若者たちに多いのが特徴です。
第2は「アルコール離断症候群」です。いわゆる「禁断症状」のでる人たちであって、長期間飲みつづけた身体的精神的依存による症状の総称でもあります。
なお「症候群」というのは、あらわれる主要症状が特定のものに限定できない病気のことである。

アルコールの禁断症状がでたときには振戦(体や手がぶるぶるふるえること)、幻覚、錯覚、発熱、発汗、散瞳、その他、おもに自律神経の異常に伴う各種の症状があわれます。

第3はビタミン( おもにB1=チアミン)不足( チアミン欠乏症)や、低栄養などの障害にともなってでる「神経障害」です。

まず、かるい意識障害がでます。ついで目玉のうごきに支障をきたします。目玉が勝手にうごけば当然うまく歩けません。したがって、酔っていないときでも千鳥足となります。このような状態のことを「ウェルニッケ脳症」といいます。

そこに記憶障害がくわわれば「コルサコフ症候群」というボケ同然の症状になります。さらに、下肢が麻痺して思うようにうごかせない「アルコール性小脳変性症」や、ニコチン酸欠乏による「ペラグラ脳症」などと診断される人も少なくありません。

ちなみに、あたまの左側の側頭葉上部にある「ウェルニッケ」領域が侵された人は、一例をあげればこんな感じです。
ある程度ボケた人でも「おたくの犬は卵を産みますか」などと聞かれれば、たいていの人なら「いいえ」とこたえるでしょうが、ウェルニッケ領域が侵された人だと「うてに、てのほうには、きゅうにあいてないですけれどね」などとアサッテをむいた応答がかえってくるのです。言語中枢をやられる怖さのひとつがこれです。

「アルコール性弱視」や、「末梢ニューロパチー」などというアルコール性の末梢神経障害もはいります。後者の場合には、下肢の異常感、皮膚表面がビリビリする異常感覚(知覚異常)、筋力の低下、発汗過多などがあります。
尿失禁(垂れながし)なども神経障害からくるものです。

第4は、いまのところまだ原因のよくわからない病気の仲間で、とにかく大酒家に多いボケ症状をくくったものです。たとえば、外国ではイタリアのブドウ洒多飲者に多いとされる「マルキャファーバ・ビギャミ病」という病気が知られています。

「アルコール性痴呆」や「脳萎縮症」など、日本人にみられる一連のボケ症もこのグループにはいるのですが、不幸にしてなった人には、記憶力や判断力の喪失だけにとどまらず、意識障害や手足のマヒなども伴います。神経系がやられると筋力も低下してくる。そこで「アルコール性ミオパチー」という病気も生じる。これはアル中者が大量に酒を飲んだとき、突然からだの筋肉が痛みだしたり(こむらがえりをおこしたりもする)、暗赤褐色の尿がでたりする症状である。また、筋肉に力がはいらない筋脱力症や、急性腎不全になることもある。第五は、アルコール性肝硬変にともなう「肝性脳症」です。振戦、筋肉の突っ張り、意識障害の反復と、症状はいろいろです。

神経系がやられれば気も滅入ってきます。病態がボケにまですすめば当人はそのツラさを忘れもしようが、その一歩手前まではたいていの人たちが悩んで孤独の淵にしずみます。死にたくもなるでしょう。

そこで、自殺者統計に「アルコール症+精神障害」と込みでくくってしまわれるという結果ともなるわけです。
くり返しますが、この「アルコール症+精神障害」によって自殺する男の総数は年間に1万3千余人です。
自殺者全体のおよそ6% を占めて、病苦原因でいのちを断つかたがたにつぐ比率なのです。

酒の害を列挙していくと、まさに悪酔いのきわみとなります。飲兵衛にして、かつ健康な毎日を過ごすためには、決まりきった話ですが、予防が一番となります。つまり、いかに姑息的といわれようとも、マメに検査を受けて異常や障害の自覚の少ない段階で対処するのが最も賢い態度ということになります。といって、異常や障害の自覚のないのに、定期の健康診断など気が進まないものですが、ここはがまんの正念場と、逃げずに所定の「検査だけは年に1度の儀式」としてすます習慣をつけたいものです。

前にも示したように、肝機能が正常でさえあれば、飲兵衛とてほんの2週間もアルコールを断ちさえすれば、検査時のガンγ-GTP値は正常値にもどるのです。まあ我慢をすればγ(ガンマ)は下がると、意思を強固にしましょう。
γ-GTPがシジミで正常値に回復